忘れられない人の恩 vol.2(高雄のAirbnbホストの女性)

台湾を旅することは決めていた。でも、それしか決めていなかった。

幸先の悪い台湾旅

大学卒業直前、仲間内で、「台北に留学中の友達のところで遊ぼう」となった。

今思い返せば、確かにそうだったのだが、この “卒業旅行” は現地集合、現地解散。

AIU生は旅慣れすぎていて、台北くらいの距離なら、最寄駅か何かだと思っている。



初めての台湾。

せっかく時間もあるし、僕は、台湾の南の都市・高雄(カオション)から入り、台北を目指して縦断することにした。

「ドミトリーならどこか空いてるだろ。」と高をくくって、宿を予約していなかった。

飛行機出発の3時間前、Hostel world(ホステル予約サイト)を見ると、予算内の所は全て埋まっている。

ホテルに1万円以上出すお金はないし、そんな高級な旅をするつもりもない。

成田発が夜6時半、高雄に着くのが(その5時間後の)深夜11時半という飛行機だったため、Airbnbは当初考えておらず、ホステルに泊まるつもりだった。

どうしたものか。

脳内で自問自答が始まった。

「初日空港泊?」「嫌だな。」

「マック泊?」「嫌だ。」

「開き直ってバーでも入って、楽しむとか?」「何の為に?絶対嫌だ。」

初日はどうしても横になって寝たかった。

Airbnbを試しに見てみると、予算内で泊まれる所が1つだけあった。

ダメ元で連絡することにしたが、すでに当日の夕方4時。

「Airbnbってこんなに直前の予約でも行けるのか?」と不安になった僕は、“差し迫った感じ”を出すため、そのホストに詳細を伝えるメールを打った。

「Hi. I’m Ryo from Japan. I know this is too late and I’m sorry for asking you such a mess, but could you possibly let me stay in your place tonight?

I’m leaving Narita tonight at 6:30 pm and arriving at Kaohsiung at 11:30 pm. It would be appreciated if you could reply within 2 hours. Sincerely,」

成田に着くまで返事はなかった。

時刻は離陸1時間前の、5時半。

何も知らない土地で夜を明かすことを覚悟していた。



土壇場で現れたヒロイン

搭乗のアナウンスが始まったとき、奇跡は起きた。

返信が来たのだ。

「こんにちは。予約フォームでは“空”になってたけど、先週から香港人の学生を泊めてるの。エアーベッドになっちゃうけど、それでも良かったらどうぞ来てください。住所は〜」

間に合った。

これこそ「土壇場」の定義だ。

高雄に着いたらWi-Fiスポットでしか連絡が取れない僕は、

「Thank you so much. I would lose Internet connection after arrival. I will go straight to your place and ring a bell.」

とだけ連絡してからシートベルトを締め、機内モードにした。



高雄に到着すると予想通り、到着ゲート側ではWi-Fiが入らなかった。

公共交通で行こうとするとさらに時間がかかってしまうので、タクシーに乗り、運転手さんに住所を見せた。

しばらく走った高速を降りた後、なかなか街灯の少ない住宅街を入って行く。

隣の国とはいえ、初めて来た国。

夜中の12時。

タクシーの運ちゃんは英語を話せない。

住宅街に入ってから、犬の鳴き声がちらほら聞こえる。

今までにも旅中に何度かハラハラする場面はあったが、確実に今回はTOP3に入ると思った。

「インターネットがない状態で、知らん国の、知らん人の家の前に来た。住所が間違っていたら、この闇に放り出される。」

こんな状況でも冷静に頭を働かせられる僕は、タクシーの運転手さんに「まだ行かないで。」と必死に伝え、ピンポンを押しに行く。

リスク管理能力が高いのか、低いのか、もうわからない。

アパートの1階でピンポンを押すと、優しそうな女性が出て来た。

「Ryoだよね?待ってたよ〜。Welcome!」

本当に全身が震えた。それくらい興奮していたのだ。

知っている限りの全ての感謝の言葉を口にして、できる限りの全ての表情とジェスチャーで感謝を伝える。

アパートの階段を上がり、家に入れてもらうと、香港人の女の子とおばあちゃん(女性のお母さん)が居間で出迎えてくれた。

その隣には白い猫。8時間近く抱えていた不安を消し去るには十分すぎる、暖かな光景だった。

挨拶を済ませてから、部屋を案内してもらった。

エアーベッドとはいえ、シーツを引いてくれていて、部屋も綺麗。

空港のベンチや、マクドナルドなどとは比べ物にならない。

そういえば、Airbnbは通常オンラインで支払うのだが、まだ支払いをしていないことを思い出して、

僕「I haven’t paid. Let me pay for the fee for normal room.」

女性「いいの、いいの。エアーベッドだし、一泊なんだから、悪いよ。」

僕「No no no! I feel so bad. Just let me.」

女性「いいから、いいから。」

この後、親切すぎる女性に対し、「払わせてよ。」とお金のことを言い続けるのが逆に悪く感じられてしまう、お決まりのパターンに突入し、結局“お言葉に甘える”形になった。

しかもだ。

「お腹すいたでしょ?残りで良かったら、チンして食べて。」とピザハットを差し出され、空腹の僕はありがたくご飯まで頂いてから、眠りについた。



名前は忘れても、優しさが忘れられない

翌朝の帰り際、駅までの道がわかりづらいから案内してくれるという。

帰り道に勢い余って、昨日からずっと心の中にあったことを、率直に訊いてしまった。

「Thank you so much for everything you have done for me. I mean… why are you so nice?」

女性はニコッと笑うと、即答で返した。

「昔イギリスに留学していたの。その頃、あちこちで同じように、沢山の人が助けてくれたからだよ。」

この言葉を聞いたとき、冗談抜きで僕の中で “何かが弾けた” 。

優しい人が優しいのは、人に優しくされたからだ、と思った。

こんなに明らかな形で、何の見返りもなく、人に助けてもらうことはなかなかない。

駅に着き、心からの感謝の気持ちを伝え、ハグしてお別れ。

あえて連絡先を訊くこともなく、「またいつか」のような軽い別れの挨拶をすることもしなかった。

彼女も別にそんなことを僕に求めていなかった。

名前を忘れてしまったあの女性に、自分ができる恩返しがあるとすれば、彼女に頂いたあの忘れられない優しさを、自分を通して他の人にも分けていくことなのだと思う。