自然に還る時間

先日、森林浴について書いた記事(https://slowlandia.net/Shinrinyoku)が好評でしたので、今回は続けて「森林浴の効能」について少し詳しくまとめてみたいと思います。

前回もご紹介しましたが、今回も情報源とさせていただくのはこちら。

森林浴研究の第一人者である宮崎良文さんの本です。

2012年にTEDxTokyoにも登壇されています。

Yoshifumi Miyazaki (2012) TEDxTokyo

森の中が人体にとっては “普通”

宮崎さんが「なぜ森林は人間の心と体を癒すのか」をシンプルに説明してくれる時のパンチラインはこう。

「人類の歴史は約500万年。現代人の人工的な暮らしの歴史は、産業革命以降として考えると200~300年。長いこと自然の中で暮らしてきた人間の心身(遺伝子)は今でも、自然の中で暮らすことに最適化されている。だから、人工環境化での “日常生活” はストレスとなりうると同時に、自然環境に “戻った” 時にはリラックスすることができる。」

確かに、改めて僕たちの生活がどれだけ “造られた” ものであるかを考えると面白い。

朝、四角く区切られた空間で目を覚ますと、蛇口から出てくる水で顔を洗い、収穫や生産がすでに済んで取って置いたものを食べる。

外へ出たら平らなアスファルトの上を歩いて、長い距離は鉄の塊に乗って移動する。日中のほとんどは、画面を見ながらボタンをカチカチ。20年くらい前に普及し始めたこの機械はもう手放せない。

夜になって日が落ちても500年前とは話が違う。電気のおかげで眠たくならないから寝る時間は自由。日本には、世界でも珍しい “24時間営業の便利な店” が今では 60,000近くある。

先人たちのおかげで毎日の暮らしに安全、秩序、時間の余裕などがもたらされたことは間違いなくただただ感謝するばかりだけれど、現代の生活は、もともと自然向けにプログラムされている人体にとってはどうやら人工化が行き過ぎているのかもしれない。

そんな毎日に少し疲れたら、時間を取って森へ出かけてみてください。

森林は人体の3つの部位に特に好影響を与えるようです。

(宮崎さんの研究では、森にわざわざ出かけることができなくても、木々や花に触れることで同様の効能を得られることが検証されています。)



目から癒される

自然の風景を眺めることで人の体が受けるリラックス効果はとても大きく、血圧の低下や脳活動の鎮静化などの作用をもたらします。

宮崎さんの実験では、部屋の中で机の上に置いたバラの花を見るだけでも、被験者の体に同様の効果が見られることがわかっています。

つまり「森林」と聞いてパッと思い浮かべる新緑の緑ではない、紅葉、ヒマワリ畑、ひたち海浜公園のネモフィラでも、人は同じようにリラックスできるんです。

この実験からさらに視覚に限定して言うならば、森林浴と同じ効果は程度の差はあれど、わざわざ森林に行かなくても得られることがわかります。新宿御苑でも、お花屋さんでも、裏庭でもカフェでもいいんです。

ROOTE BOOKS ・上野

また、目への影響として、数ある色の中で緑が賞賛される理由もあります。

緑(黄緑)は人間の目にとって、最も知覚しやすく目に負担をかけない色なのです。

つまり、プラスαの癒し効果があるわけではないけど、人間の目は緑に囲まれることで最も休んでいる状態に入れる為、視覚刺激の多い人工的な生活と比べると、森の中は圧倒的に “目に優しい” ということになります。

鼻から癒される

鼻は匂いの成分を物質的に直接知覚するので、自然に溢れた森の中で植物の香りが脳に働きかける作用は目や耳に負けじと、これまた大きいです。

樹木が発散する「フィトンチッド」という芳香成分は人に心地よさを感じさせます。こちらも実際に人の血圧を下げ、怒りや緊張を緩和させる効果があるようです。

スギ、ヒノキ、マツといった針葉樹が発するフィトンチッドは特に、副交感神経を刺激してくれるためリラックス効果が高いのだそう。

フィトンチッドはそもそも、樹木が微生物や細菌から身を守るために葉っぱなどから放出する物質なので殺菌と消臭効果が非常に高いです。森の中の空気が浄化され、澄んでいるのはこのためですね。



耳から癒される

小川の流れる音。葉っぱが風で揺れる音。小鳥のさえずり。

森の中で耳にするあらゆる音には、ある共通点があるようです。

そのサウンドやリズムには不規則な中にも規則性があり(1/f ゆらぎ)、それが人間の生体のリズムと共鳴することで、精神を安定させ活力を湧かせてくれる効果があるんです。

僕は専門家じゃないのでこれ以上の知ったかぶりは避けますが、音や動きとリラックス効果を語る上で “1/f ゆらぎ” のパワーは凄まじく、個人的にも興味が尽きません。前述した、自然の風景を見て癒されることにも関係しています。

多くの人が、電車に乗ったら振動で寝てしまうのも、宇多田ヒカルさんの歌声で癒されるのも 1/f ゆらぎ で説明できるようです。

自然に還ることは自分に還ること

ここまで読んでいただくと、お分かりだと思います。

森林浴は眼精疲労に効いて、アロマ効果もあって、ヒーリングミュージックも凌駕するというリラックスグッズの “完パケ” な訳です。

巷に溢れるリラックスグッズは知れば知るほど、冒頭で紹介した宮崎さんの「人体は自然の中で暮らすよう最適化されている」という普遍の定理を起点に開発されていることがわかります。

今回紹介した森林浴の効能は、あくまで癒し効果の一部にすぎません。

何より森林浴は、季節によっても表情を変える森の中を探検して、道中色々な発見ができるという究極のエンターテインメントかと思います。

“自然に還る時間” をぜひ持ってみてください。

身近な自然を感じてみるところから