木造建築の未来 (CLT)

CLT (Cross Laminated Timber) を知っていますか?

地球温暖化への影響を抑えるため、バイオエコノミーへとシフトする中で、建築分野は人間にとって、その経済規模の大きさからも1つのチャレンジになる。(バイオエコノミー:slowlandia.net/バイオエコノミーという概念

その新たな局面でおそらく時代のヒーローとなるのがCLT(直行集成材)。僕は以前勤めていた建築関係の会社でCLTと出会いました。

日本国内では新国立競技場の屋根に使用する話が持ち上がった頃から、業界では認知されてきたみたい。

でも、その未来の可能性の大きさに対して、世間ではまだまだ知られていないのが現状。一時代のヒーローであったイチロー選手が、始めはドラフト4位だったように。

CLTとは

CLTはCross Laminated Timberの略。「交差して貼り合わせた木材 (集成材) 」です。

建築用の木製パネルのことで、従来の集成材では繊維方向が一定だったのに対して、CLTでは繊維方向が複数の層で交差している為、強度が非常に高いです(野球のバットが簡単に折れちゃうのは繊維方向が一定だから)。

1990年代初期にオーストリアの会社で初めて製造され、徐々にその優れた特性が実験で明らかにされていき、2010年以降、ヨーロッパを中心にその利用は広がりを見せてきました

CLTは強度が非常に強いため、木造建築といっても民家などへの利用ではなく、2階建て以上の高層建築への利用ができます。

ヨーロッパではすでにいくつもCLTの高層建築が建ってきています。

今おそらく最も高いのは、今年3月に完成したノルウェーのBrumunddalにあるMjøstårnet85.4mの高さを誇ります。

Mjøstårnet by Voll Arkitekter in Brumunddal, Norway



未来のコンクリート(長所)

CLTの建築用材としての基本機能はコンクリートの水準に十分達しています。

長くなるので基本機能について突っ込んだ話はしませんが、その強度、断熱性、防音性、耐火性、また、地震への耐久性などは、実験によって十分であることが示されています。

CLTが “未来のコンクリート” ともてはやされる理由(長所)を3つにまとめました。

CLTの長所1: CO2排出を抑える

1つめの長所は木材であることに起因します。

ズバリ「木材の利用はカーボンサイクルを促進して炭素を貯蔵するから」。

木が光合成するときに、CO2を吸ってO2を吐くのはご存知の通り。ただし、木が歳とって成長が止まると、そんなにCO2を吸ってくれなくなる

だから古い木は定期的に切って新しい木を植えると、森がCO2を吸う全体量は増える。これが「カーボンサイクルを促進する」ということ。

また「炭素を貯蔵する」というのはシンプルに、炭素を木の形でこの世に残すこと。木は空気中のCO2を栄養として食べてくれて、炭素 (C) を体につけて大きくなり、O2は要らないから出す。炭素(C)に注目すると、空気中にCO2としてあった状態から、木(C)として貯蔵されたことがわかります。

コンクリートはその製造過程で大量にCO2を排出しますが、CLTならむしろライフサイクルを通してCO2を吸収できる。これが、CLTがコンクリートと比べて圧倒的にエコな理由です。

CLTの長所2:工事が簡単

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CLTの工事は、プラモデルのようにパネルを組んでいくので、コンクリートの工事に比べて簡単と言われています。

また、プレハブ施工といって「あらかじめ別の場所で一部屋分組んでおいて現場に吊り下げる」みたいなこともできるので、かなりスピーディーに工事が進んでいきます。

コンクリートよりも全然軽いので施工中の事故の可能性も抑えられますし、粉塵によるじん肺の危険も緩和されます



CLTの長所3:林業振興&地方活性化

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今後日本で普及する大きなメリットとして、国内に大量に眠るスギやヒノキなどの人工林の有効利用が挙げられます。

日本は世界有数の森林国(国土の2/3が森林)ですが、1964年に木材輸入が全面自由化してから、割安な海外材の使用が増え、木材の自給率が急低下しました

政府による国内材使用の奨励により、02年の18.8%を底として、自給率は現在40%近くまで回復していますが、これからもまだまだ伸びしろがあります。

木材を供給する地方では、原木の生産からCLTパネル加工まで、多くの雇用に繋がるため、地方活性化においてもCLTは期待されています

街が木で溢れる未来へ

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上の写真は「Light house Joensuu」。フィンランドで今一番高いCLTの建物です。Joensuu市内には、あちこちに大学生用アパートがあるのですが、これもそのうちの一つです。

こうした大型のCLTが、ヨーロッパの建築市場で本格的なブームを迎えている。日本でも、すでに中型建築はいくつか見られますが、今後ますます大きな広がりを見せるはずです。

住友林業は昨年、CLTの大型建築 (完成目標 2041年)の計画を発表しています。

木材比率9割 (木9 :鋼1) で建てる70階建て・高さ350mの、これはもう”ビル”ですね。

正直、20年後か…という感じはしますが、ここまで大きなプロジェクトではなくても、それまでの20年の間にもCLTの建物が都会にもどんどんできていき、街に木が溢れていく未来を夢見ています。

さらにCLTについて知りたい方はリンクをどうぞ。

【参考】日本CLT協会