忘れられない人の恩 vol.1(くにちゃん)

くにちゃんは、ご飯やの大将だ。

日本随一の自動車の街で、宙に高速道路が走る大きめの道路から、少し中へ入ったところに彼のお店は佇む。

歩いて仕事場に通っていた頃、帰りが遅くなると自炊する元気もない。

帰り道に胃袋を満たす目的で、初めは暖簾をくぐった。

お店に入ると、店主のおっちゃんが「いらっしゃい」と笑顔で迎えてくれた。その日、お客さんは僕だけだった。

和食が基本メニューで、仕入れ状況によってメニューに載っていない定食も作ってくれる。お任せして、確か最初の日はドライカレーだった。

ご飯をいただきながら、カウンター越しに世間話。何を話したかは覚えてないが、話が色々と盛り上がって、あっという間に3時間以上経った。

その日から、僕は常連になった。



くにちゃんは、気さくな人柄で、その後僕も何度もお話させていただいた多くの常連さん達から愛されている。

ご飯はもちろんお世辞抜きで美味しいのだが、彼の人柄がリピーターを生んでいるのは間違いない。

くにちゃんは絶妙な冗談を言いまくって、お客さんはみんな笑顔になって帰って行く。

仕事帰りに行くと、だいたい「お母ちゃん」か「けんちゃん」がいて、何人かで話しながら晩ごはんを食べるのが、僕にとっては日々の小さな楽しみだった。

雨の日は「通り道だから乗りなよ」と言ってくれて、何度か「DUSKINさん」に家まで送ってもらった。

仕事の話はほとんどなし。当時の僕はおそらく、無意識にそんな空間を望んでいたのだと思う。

色々と悩んだ末、仕事を辞めることになったとき、くにちゃんにも当然のように電話で伝えた。

しばらくお店に行っていなかった僕を心配して「そんなことだろうと思ったよ。で、次はいつ来んのよ?」と、くにちゃん。

引っ越しの話をすると、洗濯機の引き取り手まで見つけてくれ、何から何まで本当にお世話になった。

いつか何かの用で、あの街へ戻ることがあれば、僕が初日に晩ごはんを食べる場所はもうすでに決まっている。