寒帯針葉樹林に広く生息する、シカ科最大種「ヘラジカ(別名・ムース、エルク)」。
国で言うと、北欧(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、ロシア、カナダ、アメリカ北部、中国東北部などが生息地に当たります。
フィンランドの広大な森にはおよそ10万頭が住んでおり、僕はまだ遭遇したことがありませんが、長時間車を走らせていれば遭遇することは全然珍しく無いと聞きます。
草食動物であり、秋の発情期を除くと基本的にはおとなしい性格をしていますが、その体は巨大中の巨大。身長(頭まで)は2.4-3.1m、体重はなんと200-825kgと言われています。
ムースが人と交わることは滅多にありませんが、今回はムースと人間社会の関わりについて紹介していきます。
森林道における衝突事故の危険性
フィンランドにおいて全ての人が持つムースとの関わりといえば、車での走行中に彼らと衝突するリスクが挙げられます。
都市エリアを除き、フィンランド内の高速道路は大半が森林内の道であり、強固なガードレールを全ての道横に作ることなど不可能で、ムースが道路を横切って移動することが多々あります。
ムースが活発に移動するとされる夜明けや夕暮れの薄暗い時間には、人間(車)との遭遇の可能性が特に高まります。
ムースとの衝突が危険な理由はもちろん彼らの巨体にありますが、さらに危険度が高まる理由として彼らの体型が挙げられます。
ムースは足がひょろっと細長く、胴体がずっしりしています。身長は大抵の車よりも高い2-3mです。
その為、車が衝突した際、まず車の最前部がムースの足にぶつかり、次の瞬間、ムースの胴体がハンマーのように車のフロントガラスに降り下ろされます。
車で走行中にパッと脇から出てくると避けるのはかなり難しいですし、壁や車と車の最前部が衝突する場合と違い、エアバッグが効果を発揮しきれない為、かなり危険です。
衝突事故はフィンランドで年間およそ1,800件発生しており、北欧やドイツの車メーカーでは自動車の安全評価に「ムーステスト」なるものを設け、急ハンドルや衝突時のリスクを下げる努力をしているそうです。

狩猟による個体数のコントロール
自然と野生動物との関わりを考えるときに避けて通れない狩猟。
ムースは絶滅危惧種のように個体数が減少している動物種ではありません。
一方、捕食動物であるヒグマやオオカミの数は減少の一途を辿っており、現状の生態系で人が狩猟を行わない場合、ムースの数は増え続けることになります。
秋の狩猟シーズンには、毎年ハンター達が35,000-50,000頭のヘラジカを狩猟しており、その数は5・6月の間に生まれる子鹿の数と同じだそうです。
「狩猟」と聞くと僕は正直「かわいそうだな」と思ってしまいますが、ムースの個体数が増えると、先に挙げた自動車の衝突事故や、人工林の被害(ムースはマツや白樺の若木を食べる)は合わせて増加します。
フィンランドが国益の多くを森林部門から得て、人々の生活(現在は自分自身も含む)が支えられていることなどと正面から向き合えば、決して「狩猟」だけが否定されるべきではありません。
狩猟されたムースの肉は、ハンターやその家族、友人などで分けられたり、伝統的なフィンランド料理レストランやスーパーマーケットに売られ、食されています。
本記事では、主にムースとの自動車衝突事故に焦点を当てましたが、ムースは太古の昔からフィンランドの森林に生息する動物であり、人々からはフィンランドを象徴する動物として親しまれています。
人間と動物の共存関係には難しい問題も多々ありますが、自然、動物をリスペクトする心は忘れずに持っていたいものですね。
【参考記事】